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大阪地方裁判所 昭和31年(行)30号 判決 1957年2月11日

大阪市大淀区吉山町一番地

原告

中川繁造

同市同区中津本通一丁目三〇番地

被告

淀川税務署長

山野井幹一郎

右指定代理人

大蔵事務官 沢田安彦

植村善一

日下元孝

平松繁一

右当事者間の昭和三十一年(行)第三〇号課税処分取消事件につき当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対しなした昭和二十九年度所得税更正決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として「原告は昭和三十年三月五日、昭和二十九年度分所得税申告額を金二十五万円として申告したところ被告は同年四月十六日、更正決定額金四十四万三千百円として通知してきた。そこで原告は同年五月十四日右決定に対し再調査請求をなしたが被告は同三十年六月三十日却下の決定をした。これに対し原告は更に大阪国税局に対し審査請求をしたところ同三十一年二月十六日右請求を棄却した。

右更正決定は被告が具体的調査もせず根拠もなく被告がなしたものであるから、これの取消を求めるため本訴請求に及んだ」とのべ、被告提出の乙号証の認否をなさない。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として「原告主張の事実中原告の昭和二十九年分の所得税に関し原告主張のような更正処分をなしたことは認めるが、右更正決定は同三十年四月十六日書留郵便で発送し翌十七日原告方へ到達しているのである。したがつて右処分に対しては所得税法第四十八条により決定受領後一カ月以内に再調査の請求をしなければならないのに原告は右期間を経過した同年五月十九日に再調査の請求をしているから被告は同年七月一日右再調査請求却下の処分を原告に通知したのであつて、原告は訴提起の前置要件を具備しないものであるから本訴を却下すべきものであるとのべ、

証拠として乙第一、二号証を提出した。

理由

職権を以て審按するに真正に成立したものと認められる乙第一号証(書留郵便物の配達月日等の照会についてと題する書面)及び同第二号証(昭和二十九年度分所得税再調査請求書)中真正に成立したものと認められる官署作成部分並に弁論の全趣旨によれば被告が原告に対し更正決定を発し右決定が原告に到達したのは四月十七日なることを推認することができ而してこれに対し原告が再調査請求をなしたのは同三十年五月十九日なることを認めることができる。

所得税法第四十八条によれば再調査を適法に申立てうるには更正決定を申告者が受領した日から一ケ月以内でなければならない。

所謂抗告訴訟においては必要とされる行政上の前審手続を正規の期間内になされないときは、最早実体的審理をなすことができないものである。もしみだりに行政上の救済手続を適法な期間内に経由しないものを裁判所において実体審理に入ることがあるならば所得税法が審査の手続期間を設けた趣旨を没却することになる。はたしてそうだとすると、原告の本訴請求は前記認定の如く所得税法右該当条項に定めた前審の救済期間を経過してなされたものであつて本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく不適法として却下すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 松本保三 裁判官 井上孝一)

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